京都府学連事件についてわかりやすく解説してみた

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行政書士試験の憲法分野では、重要な判例知識が問われます。中でも「京都府学連事件」は、私たちの「肖像権」と、捜査における警察官の「写真撮影」の許容範囲について、憲法判断を示した大変重要な判例です。この判例は、憲法13条(幸福追求権)を根拠に肖像権が保障されることを実質的に初めて認めたリーディングケースとしても知られています。

この記事では、京都府学連事件の概要、主な争点、そして行政書士試験で押さえておくべき最高裁判所の判断について、分かりやすく解説します。

事件の概要

昭和37年(1962年)当時、京都府学連主催のデモ行進が行われました。このデモ行進には許可が得られていましたが、被告人である立命館大学の学生Xが、デモ隊の先頭集団に立って行進を誘導する中で、機動隊ともみ合いになり隊列が崩れました。

この状況が、京都府公安委員会が付した「行進隊列は四列縦隊とする」という許可条件や、警察署長が付した「車道の東側端を進行する」という道路交通法に基づく条件に外形的に違反する状況であると判断した、現場の警察官(巡査D)は、違法な行進の状態および違反者を確認するために、デモ隊の先頭部分の行進状況を写真撮影しました。

これに気づいたXは激高し、撮影した警察官に暴行を加え、傷害(全治1週間)や公務執行妨害の罪で起訴されました。

裁判では、Xは「警察官による写真撮影は、本人の同意なく、裁判官の令状もない違法な行為であり、憲法13条(肖像権)や憲法35条(令状主義)に違反する。したがって、これは適法な公務執行ではないため、公務執行妨害罪は成立しない」と主張して争いました。

争点

この事件における主な争点は以下の2点でした。

  • 個人は、自分の容貌等を承諾なく撮影されない自由(肖像権)を有するか。また、それは憲法上保障されるか。
  • 警察官が、犯罪捜査等の目的で、本人の同意なく写真撮影を行うことは許されるか。許されるとすれば、それはどのような場合か。

最高裁判所の判断

最高裁判所大法廷は、昭和44年(1969年)12月24日に判決を下しました。その判断の要点は以下の通りです。

肖像権の保障について

最高裁は、憲法13条(すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。)の規定を引用し、これは国民の私生活上の自由が、警察権等の国家権力の行使に対しても保護されるべきことを規定しているとしました。

そして、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌・姿態(容貌等)を撮影されない自由を有するものというべきであると判断しました。

「これを肖像権と称するかどうかは別として」と断りつつも、警察官が、正当な理由もないのに、個人の容貌等を撮影することは、憲法13条の趣旨に反し、許されない としました。

これにより、京都府学連事件の判決は、憲法13条を根拠に「肖像権」という具体的な権利が保障されることを実質的に認めた最初の判例 となり、憲法13条が「新しい人権の根拠となる一般的かつ包括的な権利」と捉えられる重要な根拠の一つとなりました。

公共の福祉による制約について

最高裁は、個人の有する上記「みだりに容貌等を撮影されない自由」も、国家権力の行使から無制限に保護されるわけではないとしました。憲法13条の規定に照らしても明らかなように、公共の福祉のため必要がある場合には、相当の制限を受ける と判断しました。

そして、犯罪を捜査することは、公共の福祉のため警察に与えられた国家作用の一つであり、警察にはこれを遂行すべき責務があると指摘しました。したがって、警察官が犯罪捜査の必要上写真を撮影する際、その対象の中に犯人のみならず第三者である個人の容貌等が含まれても、これが許容される場合がありうるとしました。

警察官による無同意・無令状撮影が許される場合

肖像権が公共の福祉によって制約され、警察官による撮影が許容される具体的な場合として、最高裁は以下の3つの要件を挙げました。

これらの要件を満たす場合には、撮影される本人の同意がなく、また裁判官の令状がなくても、警察官による個人の容貌等の撮影が許容されると解すべきであるとしました。

  1. 現に犯罪が行なわれもしくは行なわれたのち間がないと認められる場合(行為の現行性)
  2. 証拠保全の必要性および緊急性がある
  3. その撮影が一般的に許容される限度をこえない相当な方法をもつて行なわれるとき(方法の相当性)

また、上記要件を満たす撮影であれば、その対象の中に、犯人の容貌等のほか、犯人の身辺または被写体とされた物件の近くにいたためこれを除外できない状況にある第三者である個人の容貌等を含むことになつても、憲法13条、35条に違反しない としました。これは、特に緊急時において、対象者だけを選んで撮影するのが現実的に困難であることからも許容されるという考え方に基づいています。

本件への当てはめ

最高裁は、本件の警察官による写真撮影について、

  • デモ隊の隊列が許可条件に違反している現に犯罪が行なわれていると認められる場合になされたこと
  • 多数の者が参加し刻々と状況が変化する集団行動の性質からいって、証拠保全の必要性および緊急性が認められること
  • その方法も、行進者に特別な受忍義務を負わせるようなものではなく、一般的に許容される限度を超えない相当なものであったこと

を認定しました。

これらの事実から、D巡査の右写真撮影は上記の3要件を満たしており、たとえ被告人ら集団行進者の同意もなく、その意思に反して行なわれたとしても、適法な職務執行行為であったと判断しました。

したがって、これを刑法上の職務行為にあたるとした原判決の判断に、憲法13条、35条に違反する点は認められないとし、被告人側の上告を棄却しました。

まとめ:行政書士試験対策上のポイント

京都府学連事件は、行政書士試験の憲法分野で頻繁に問われる重要判例です。以下のポイントをしっかり押さえておきましょう。

  • 肖像権の憲法上の根拠: 肖像権は、憲法13条を根拠に保障される新しい人権であることを、この判例が実質的に初めて認めました。「何人も、その承諾なしに、みだりにその容貌等を撮影されない自由を有する」という表現は、判例の言葉として重要です。
  • 公共の福祉による制約: 肖像権も無制限ではなく、公共の福祉のため必要がある場合には制約を受けるということです。
  • 警察官による写真撮影が適法となる3つの要件: 警察官による無同意・無令状の撮影が適法となる場合として示された「行為の現行性」「必要性・緊急性」「方法の相当性」の3要件は必ず覚えましょう。
  • 第三者が写り込んだ場合: 上記3要件を満たす場合、第三者が写り込んでも憲法には違反しないとされている点も押さえておきましょう。

京都府学連事件は、私人の自由と国家権力の行使の関係を示す典型的な判例です。上記ポイントを理解し、関連する知識と結びつけて整理しておくことが、試験対策上非常に有効です。

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