行政書士試験受験生の皆さん、こんにちは! 今回は、行政法や憲法の分野で頻出の重要判例である「成田新法事件」(最判平成4年7月1日)について、分かりやすく解説します。
事件の概要
新東京国際空港(成田空港)の建設は、反対派による強力な実力闘争によって大幅に遅れていました。開港直前には、過激派集団が空港内に火炎車を突入させ、管制塔を占拠して航空管制機器を破壊するという事件が発生しました。
このような事態を受け、政府は空港の安全確保のため、「新東京国際空港の安全確保に関する緊急措置法」(通称「成田新法」)を制定し、即日施行しました。この法律は、新空港や航空機の航行を妨害する「暴力主義的破壊活動」を防止するため、その活動に使われる工作物の使用禁止などの措置を定めることを目的としています。
運輸大臣は、この成田新法に基づき、反対派の拠点となっていた「横堀要塞」と呼ばれる建物の所有者に対し、「多数の暴力主義的破壊活動者の集合の用」または「爆発物・火炎びん等の製造・保管の場所の用」に供することを禁止する命令を出しました。
これに対し、建物の所有者(上告人X)は、「事前に告知、弁解、防御の機会が与えられなかったことは、適正手続を定めた憲法31条に違反する」として、処分の取消しを求め訴訟を提起しました。
争点
この事件の最大の争点は、「刑事手続について規定された憲法31条の適正手続の保障が、行政手続においても適用されるのか、また、事前の告知・弁解・防御の機会を与えずに処分を出すことは憲法31条に違反するのか」という点でした。
何人も、法律の定める手続によらなければ、その生命若しくは自由を奪はれ、又はその他の刑罰を科せられない。
最高裁判所の判断
最高裁は、以下の判断を示し、成田新法は憲法31条に違反しない(合憲である)と結論づけました。
憲法31条の適用範囲について
- 憲法31条が定める法定手続の保障は、直接には刑事手続に関するものである。
- しかし、「行政手続が刑事手続ではない」という理由だけで、その全てが当然に同条による保障の枠外にあると判断することは相当ではない。つまり、行政手続にも保障が及ぶ場合があると判示しました。
事前の告知・弁解・防御の機会の必要性について
- 行政手続は刑事手続と性質が異なり、行政目的に応じて多種多様であるため、常に必ず事前の告知・弁解・防御の機会を与えることを必要とするものではない。
- 行政処分の相手方にこれらの機会を与えるかどうかは、以下の要素を総合的に比較衡量して決定されるべきです。
- 行政処分により制限を受ける権利利益の内容、性質、制限の程度
- 行政処分により達成しようとする公益の内容、程度、緊急性
本件への適用(比較衡量)
- 本件の使用禁止命令により達成しようとする公益は、新空港の設置・管理、航空機の航行の安全確保であり、これは「国家的、社会経済的、公益的、人道的見地から極めて強く要請されるもの」であり、「高度かつ緊急の必要性」を有するとされました。これには、空港を利用する乗客等の生命・身体の安全確保も含まれます。
- 一方、制限される利益は、多数の暴力主義的破壊活動者が当該工作物を集会の用に供する利益にすぎない。
- これらの要素を総合的に比較衡量すると、本件命令を行うにあたり、事前に告知・弁解・防御の機会を与える旨の規定がなくても、成田新法3条1項が憲法31条に反するものとはいえない、と判断されました。
行政書士試験対策!押さえておくべきポイント
- 憲法31条の適正手続の保障は、刑事手続だけでなく、行政手続にも及ぶ可能性があることを理解しましょう。
- ただし、行政手続は多種多様であるため、常に事前の告知・弁解・防御の機会が必須ではないとされています。
- 事前の機会を与えるかどうかの判断は、制限される権利利益の内容・性質・程度と、達成しようとする公益の内容・程度・緊急性を総合的に比較衡量して決定される、という「比較衡量論」が重要です。
- 本件では、空港の安全確保という「高度かつ緊急の必要性」と「極めて強い公共の利益」が、事前の告知・弁解・防御の機会を欠くことを正当化すると判断されたことを覚えておきましょう。
- 類似の論点として、「川崎民商事件」(行政手続と憲法35条の令状主義、黙秘権)も確認しておくと良いでしょう。
この判例は、憲法31条の解釈における行政手続の位置づけと、比較衡量論の考え方を学ぶ上で非常に重要です。しっかりと理解して、得点源にしましょう!
参考リンク
https://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/375/053375_hanrei.pdf
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