行政書士試験対策として、外国人の方の人権に関する重要判例であるマクリーン事件(最大判昭和53年10月4日)について、詳しく解説していきます。
この事件は、行政書士試験において頻出のテーマであり、しっかりと理解しておくことが合格への鍵となります。
外国人に基本的人権は保障されるか?
→原則として、外国人にも基本的人権は保障されます。ただし、性質上日本国民のみを対象とする権利は除く。
外国人に政治活動の自由は保障されるか?
→原則として、外国人も政治活動の自由が保障されます。しかし、日本の政治的意思決定やその実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみ相当でないと解されるものは保障されません
外国人に在留の権利は保障されるか?
→外国人に憲法上の在留権利は保障されていません。在留は出入国管理令に基づき法務大臣の裁量で許可されるものであり、在留期間の更新も同様です。したがって、外国人は引き続き在留することを要求する権利は保障されていません
事件の概要

アメリカ人のマクリーンさんは、英語教師として働くために日本のビザ(在留資格)をもらって日本に入国しました。しかし、日本に来てすぐに別の仕事に就き、許可された英語教師の仕事をしなくなりました。
さらに、マクリーンさんはベトナム戦争に反対するなどの政治活動に積極的に参加しました。具体的には、集会に参加したり、ビラを配ったり、アメリカ大使館に抗議に行ったりしました。
その後、マクリーンさんのビザの期限が切れそうになったので、在留期間の更新を申請しました。しかし、法務大臣は、マクリーンさんが許可されていない仕事に就いたことと、政治活動を行ったことを理由に、更新を認めないという処分(決定)をしたのです。
マクリーンさんはこれに納得できず、「外国人にも政治活動の自由があるはずだ!そんな理由でビザの更新を拒否するのは憲法違反だ!」と訴えました。これがマクリーン事件の始まりです。
争点

この裁判では、主に以下の点が争われました:
- 外国人にも基本的人権の保障は及ぶのか?
- 外国人にも政治活動の自由は保障されるのか?
- 法務大臣の在留期間更新不許可処分は合憲・合法か?
最高裁判所の判断(結論)
最高裁判所は、以下の通り判断しました:
- 外国人にも基本的人権の保障は及ぶ。ただし、権利の性質上、日本国民のみを対象と解されるものを除く。そして、その保障は外国人在留制度の枠内で与えられたものに過ぎない。
- 外国人にも政治活動の自由は保障される。しかし、わが国の政治的意思決定またはその実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみ認めることが相当でないと解されるものを除く。
- 法務大臣の在留期間更新不許可処分は合憲・合法である。在留期間の更新は、法務大臣の広い裁量に委ねられており、裁判所が違法と判断できるのは、処分が全く事実に基づかない場合や、社会通念上著しく妥当性を欠くことが明らかである場合に限られる。本件では、法務大臣の判断は裁量権の逸脱・濫用には当たらず、適法であるとされました。
判決のポイント解説
権利享有主体性(外国人にも基本的人権は及ぶのか)
最高裁は、憲法第3章の基本的人権の規定は、権利の性質に着目し、日本国民のみを対象とするものを除き、日本に在留する外国人にも等しく及ぶとしました。
- 日本国民のみが対象となる権利の例: 国政選挙の参政権(憲法15条参照)、公務就任権の一部(特に統治作用に関わる公務員)など。
- 外国人にも及ぶ可能性のある権利の例: 表現の自由、財産権など。
ただし、外国人の基本的人権の保障は、外国人在留制度の枠内で与えられているに過ぎないという点に注意が必要です。これは、外国人は日本に在留する権利が憲法上保障されているわけではなく、在留の許否は国の裁量に委ねられているためです。
政治活動の自由
最高裁は、外国人にも原則として政治活動の自由が及ぶと認めました。しかし、その自由は無制限ではなく、日本の政治的意思決定やその実施に影響を及ぼすような活動は、外国人の地位に照らして制限されるとしました。
マクリーン氏の行ったベトナム反戦運動は、その態様から直ちに憲法の保障が及ばない政治活動とは言えないとされました。しかし、その活動の中には、日本の外交政策や日米関係に影響を及ぼす可能性のあるものも含まれていたため、法務大臣がこれを在留期間更新の判断材料とすることは許容されると判断されました。
法務大臣の裁量と司法審査
在留期間の更新は、出入国管理行政の目的である国内の治安維持、善良の風俗の保持、保健・衛生の確保、労働市場の安定などの国益を考慮し、法務大臣が広範な裁量をもって判断するとされています。
裁判所は、法務大臣の裁量判断を尊重し、その判断が全く事実に基づかないか、または社会通念上著しく妥当性を欠く場合に限って、裁量権の逸脱・濫用として違法と判断することができます。本件では、マクリーン氏の政治活動を理由とした不許可処分が、これらの基準に照らして違法とまでは言えないと判断されました。
最重要ポイントだけまとめました。これさえ覚えておけば問題ありません。
外国人に基本的人権は保障されるか?
→原則として、外国人にも基本的人権は保障されます。ただし、性質上日本国民のみを対象とする権利は除く。
外国人に政治活動の自由は保障されるか?
→原則として、外国人も政治活動の自由が保障されます。しかし、日本の政治的意思決定やその実施に影響を及ぼす活動など、外国人の地位にかんがみ相当でないと解されるものは保障されません
外国人に在留の権利は保障されるか?
→外国人に憲法上の在留権利は保障されていません。在留は出入国管理令に基づき法務大臣の裁量で許可されるものであり、在留期間の更新も同様です。したがって、外国人は引き続き在留することを要求する権利は保障されていません
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